関東大震災とその虐殺事件

 今日は防災の日です。
 そして、関東大震災の起こった日でもあります。
 混乱の最中、流言蜚語が発生し、虐殺事件へと繋がりました。

 地震で怖いのは、地震自体だけではないのですよね。

 以下は、以前、或るコミュのトピックスで書いた事ですが、当日記でも、多少の追記の上でまとめてみます。


萩原朔太郎「近日所感」

  朝鮮人あまた殺され
  その血百里の間に連なれり
  われ怒りて視る、何の惨虐ぞ

 
 この件に関して、『暴動は本当に「デマ」だったのでしょうか』や、『虐殺は有ったのか』という旨の疑問を持たれる方が居られる様ですが。

 暴動は、デマです。
 虐殺は、有りました。

 まず、当時の新聞記事は誤報だらけです。

 例えば、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」由のデマですが。
 
 「毒」のデマの元になったという、「大阪で発生した井戸に云々」の事件も、私が探した限り、詳細は見つかっていません。
 「毒ではなく汚物を入れた」という話が有りましたが、これも伝聞程度でした。

参考
wikipedia 関東大震災 (虐殺事件の概観を把握する為にも参考になります)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%A2%E6%9D%B1%E5%A4%A7%E9%9C%87%E7%81%BD
 「迫害の標的にされた当の朝鮮人の犯罪は、殺人2名、放火3件、強盗6件、強姦3件であった。」

関東大震災の報道検証 
http://www.jca.apc.org/~altmedka/sinsai.html
 「【朝鮮人来襲の虚報には警視庁も失敗しました。警視庁当局者として誠に面目なき次第です】」(正力松太郎

・資料  関東大震災人権救済申立事件調査報告書 日弁連
http://www.azusawa.jp/shiryou/kantou-200309.html
 【そもそも、朝鮮人が放火、爆弾所持・投擲、井戸への毒物投入等の不逞行為をおこなっているという喧伝は、客観的事実ではない流言飛語であった。少なくとも、各所で多数のそうした行為が行われたり、組織的な行為が行われたという形跡はない。これが流言飛語であったことは、以下のとおり当時の警察文書の記載からも明かな事実である。
  例えば、警視庁編 『大正大震火災誌』(資料第1の1『現代史資料(6)』39頁以下) は、「鮮人暴動の蜚話に至りては、忽ち四方に伝播して流布の範囲亦頗る広く」 「流言蜚語の、初めて管内に流布せらりしは、9月1日午後1時頃なりしものの如く、更に2日より3日に亘りては、最も甚しく、其種類も亦多種多様なり。」(同 39頁) と記載し、以下時々刻々の流言飛語の状況と内容を摘示し、その取締状況と朝鮮人保護の状況に至るまで詳細に記録している。これは、鮮人暴動・不逞行為などの言説がおよそ客観的事実にもとづかない流言であったことを直截に物語るものである】


・半月城通信No.54
http://www.han.org/a/half-moon/hm054.html
【大正十二年十月十四日 国民新聞夕刊

「 警察官憲の明答を求む
  法学博士 上杉慎吉

 私は数百万市民疑惑を代表して、簡単に左記の五箇条を挙げて、警察官憲の責任に関し明答を得たいと思ふ。

 一、九月二日から三日に亘り、震災地一体に○○襲来放火暴行の訛伝謡言が伝搬し、人心極度の不安に陥り、関東全体を挙げて動乱の状況を呈するのに至ったのは、主として警察官憲が自動車ポスター口達者の主張に依る大袈裟なる宣伝に由れることは、市民を挙げて目撃体験せる疑うべからざる事実である。
 然るにその後右は全然事実に非ずして虚報であったと云ふことは、官憲の極力言明して打消して居る所である。然からば警察官憲が無根の流言飛語を流布して民心を騒がせ、震火災の惨禍を一層大ならしめたるに対して責任を負はなければなるまい。

 二、当時警察官憲は人民に向て○○○○の検挙に積極的に助力すべく自衛自警すべきことを極力勧誘し、武器の携帯を認容したのであった。而して手に余らば殺しても差支なきものと、一般をして何となく信ぜせしめたのである。而して之を信じて殴打激殺を行った者は至る処に少からぬのである。
此れ等の自警団其の他の暴行者は素より検挙処罰すべきこと当然であるが、さて之に対する官憲の責任は如何。

 三、(略)

 四、当時警察官憲は各種の人民を見境無く検挙し殴打した。遂に之を殺戮し、その死体は焼き捨てたと云ふことは亀戸事件にも見えて居る。此の警察官憲の暴行には軍隊も協同したと云ふことであるが、警察官憲は無責任と云ふわけには行くまい。

 (以下略)」


 (出典『現代史資料6 関東大震災朝鮮人みすず書房)】

 余談ですが、上杉という人は、天皇主権説を主張し、天皇機関説の美濃部博士と論戦を演じた人です。
 論戦に敗れた後は(後年、天皇主権説が公認されてしまいますが)、軍教育に深く関わる様になりました。
 また、かの「昭和の妖怪」岸信介もこの人の弟子です。
 およそ、「リベラル」とは呼び難い、むしろその真逆の側の人物であるとご理解下さい。
 
 当時の内閣告知。
 元のページは消えていますので、IAのそれを張ります。

http://web.archive.org/web/20060220182140/http://mopple.nce.buttobi.net/0905.htm

 尚、朝鮮人が云々の記事を載せた福岡日日新聞の後身の西日本新聞読者室の室長氏曰く(私が電話で直接お伺い致しました)、「誤報だった」「通信社から記事の提供を受けた」そうです。
 この通信社も怪しいと思うのですが(現在の共同通信時事通信の前身です)、当時から今日まで、統合と分裂を繰り返しています。
 満足な資料が残っているかどうか、有っても提示してくれるかどうか(こちらにも、それぞれ、直接電話して聞いてみましたら、「資料が残っていても、一般には公開しない。多忙だから調べてもあげない」そうです)。


 もし、一部の朝鮮人の暴動とその鎮圧が事実ならば、軍・警察関係や裁判関係において、然るべきその資料が有り、以下が確認可能な筈ですね。
 何月何日、どこで「暴動」が有ったのでしょうか。
 鎮圧した部隊や署はどこでしょうか。
 その指揮官は誰でしょうか。
 暴動の被害の具体的内容は如何でしょうか。
 被害者は何人くらいでしょうか。
 それらの人々やその遺族の証言は有るのでしょうか。
 暴動参加者は何人くらいでしょうか。
 鎮圧時、逮捕者や殺された人間は何人くらいでしょうか。
 裁判に掛けられ、有罪となったのは何人くらいでしょうか。

 また、有罪となったのは、どんな方でしょうか。
 その人やその周辺の発言は有るのでしょうか。

 なぜ、警察筋で「虚報だった」旨の発言が出ているのでしょうか。
 自分たちの不名誉を、わざわざ捏造する謂れも無い筈ですね。

 暴動について、その実際の発生を裏付ける確かな複数のソースが無いなら、「有った」との断言は避けるべきです。
 私は、暴動は無かったということを裏付ける複数のソースを確認し、何より、「有った」と言う意見の方による然るべき立証が、現時点ではなされていませんので、デマと断言しました。

 「暴動は有った」と断言されたい方は、この場合、その方に挙証責任(立証責任)が有ります。
 具体的なソースが有るなら、是非ご教示下さい。
 新聞記事以外も含めて。


 「虐殺は無かった」につきましては。
 「喧伝されている数は誇張である」は、「一切虚偽である」とは、≒ではないのですよ、と。
 裁判記録とかも、諸々、残っていますしね。
 ボルシェビキだのテロリストだのがどうのについても同様。
 
 工藤美代子氏のご研究を、頭から信用しないように。
 あの御仁の著書を読むなら、併せて、最低限、吉村昭氏の著作も読みましょう。

参考
・瓦礫の中のゴールデンリング
《2010-03-25 なかった話、そのn。
[読書]1800円損した》
http://d.hatena.ne.jp/mitahiroshi/20100325

《2010-03-29 ちょっと暇だから読書の続き。
[歴史修正主義]■工藤美代子「真実」についてメモ。その1》
http://d.hatena.ne.jp/mitahiroshi/20100329

《2010-03-31 更に続き。
■[歴史修正主義]「真実」についての続き。その2》
http://d.hatena.ne.jp/mitahiroshi/20100331

《2010-04-06 ヒマなので。
■[歴史修正主義]逐文批判からちょっと離れて。》
http://d.hatena.ne.jp/mitahiroshi/20100406
【工藤美代子の本を読んで、「こんなことが隠蔽されていたなんて知らなかった」と感じた人は多いでしょう。なぜそう感じるかというと、隠蔽どころかあからさまになっている事実さえ知らないからです。工藤がちらりと批判している吉村昭関東大震災」は読みやすく、震災、流言の全容を描き出した労作で、読めば、流言も虐殺もなかったと断言する工藤の議論がアホらしくなります。流言がどのように発生したのか、それを官憲、軍隊はどのように捉え、対応したのかは工藤の唱える陰謀論より、遥かにクリアーに、そして多岐にわたり詳細に提示されています。「工藤氏によって事実が暴露された」という手合いは、それ以前に関東大震災のときに何が起こったのかについて、知らないし知ろうともしていないだけです。】

・daily report from mt.olive
「況や殺戮を喜ぶなどは」  
http://angel.ap.teacup.com/applet/unspiritualized/20091219/archive

・朝鮮新報(日本語版)
「〈人物で見る日本の朝鮮観〉 芥川龍之介
http://www1.korea-np.co.jp/sinboj/j-2004/06/0406j1027-00001.htm

ナザレのイエス御自身の信仰の形成過程と見えたもの イエスを知る⇒イエスの信仰の連続性と飛躍性 &神の公正を求めて
「工藤美代子氏の人格のいんちきさを暴露する著作『関東大震災朝鮮人虐殺」の真実』」
http://blogs.yahoo.co.jp/satoatusi2006/31887875.html



その他、参考
日本ペンクラブ:電子文藝館 「関東大震災
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/guest/sovereignty/imaiseiichi.html

・半月城通信 「関東大震災」 (こちらは、細かく資料を挙げてくれていて助かります)
http://www.han.org/a/half-moon/mokuji.html#kantou

・第6編 社会生活史/第4章 近代/第5節 大正時代の三多摩/5.3 関東大震災
ttp://www.tamariver.net/jouhou/tamagawashi/parts/text/064530.htm
http://web.archive.org/web/20050425175831/http://www.tamariver.net/jouhou/tamagawashi/parts/text/064530.htm

・SeikyoMediaPageArticle187 宮武外骨関東大震災ルポ『震災画報』
ttp://www.seikyo.org/article187.html
http://web.archive.org/web/20080219064817/http://www.seikyo.org/article187.html

finalventの日記 - 関東大震災時の朝鮮人虐殺に関する歴史書メモ
http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20060319/1142759168

・Apes! Not Monkeys! はてな別館 [文献紹介][戦争犯罪]関東大震災時における朝鮮人虐殺
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20060901

その他、参考文献
吉村昭関東大震災
・山田昭次「関東大震災時の朝鮮人虐殺―その国家責任と民衆責任」
・松尾章一「関東大震災戒厳令
・同、大竹 米子 (編集)、平形 千恵子 (編集)「関東大震災政府陸海軍関係史料〈1巻〉政府・戒厳令関係史料
・吉河光貞「関東大震災の治安回顧」(法務府特別審査局)
・琴秉洞 編・解説「朝鮮人虐殺に関する知識人の反応」1・2(関東大震災朝鮮人虐殺問題関係史料 ; 3) (緑蔭書房)
http://rnavi.ndl.go.jp/mokuji_html/000002535104.html
http://rnavi.ndl.go.jp/mokuji_html/000002535105.html

・同 著「朝鮮人虐殺関連官庁史料」(同) 1991.3. -- (関東大震災朝鮮人虐殺問題関係史料 ; 2)
・山田昭次 著「朝鮮人虐殺関連新聞報道史料. 1」 (同) 2004.1. -- (関東大震災朝鮮人虐殺問題関係史料 ; 5)
・同「朝鮮人虐殺関連新聞報道史料. 2」(同) 2004.1. -- (関東大震災朝鮮人虐殺問題関係史料 ; 5)
・同「朝鮮人虐殺関連新聞報道史料. 3」(同) 2004.1. -- (関東大震災朝鮮人虐殺問題関係史料 ; 5)
・「朝鮮人虐殺関連新聞報道史料. 4」(同)  2004.1. -- (関東大震災朝鮮人虐殺問題関係史料 ; 5)
・同「朝鮮人虐殺関連新聞報道史料. 別巻」(同) 2004.1. -- (関東大震災朝鮮人虐殺問題関係史料 ; 5)
・琴秉洞 著「朝鮮人虐殺関連児童証言史料」(同) 1989.10. -- (関東大震災朝鮮人虐殺問題関係史料 ; 1)
・同「朝鮮人虐殺に関する植民地朝鮮の反応」(同)1996.10. -- (関東大震災朝鮮人虐殺問題関係史料 ; 4)

 以下は、国立国会図書館での検索結果。

http://opac.ndl.go.jp/Process?MODE_10090001%3AS4=ON&SEARCH_DB_WATOSHO=SEARCH_DB_WATOSHO&SEARCH_DB_YOTOSHO=SEARCH_DB_YOTOSHO&SEARCH_DB_WAZASHI=SEARCH_DB_WAZASHI&SEARCH_DB_YOZASHI=SEARCH_DB_YOZASHI&SEARCH_DB_DENSHI=SEARCH_DB_DENSHI&SEARCH_DB_KOTENSEKI=SEARCH_DB_KOTENSEKI&SEARCH_DB_HAKURON=SEARCH_DB_HAKURON&SEARCH_DB_MAP=SEARCH_DB_MAP&SEARCH_DB_ONGAKUEIZO=SEARCH_DB_ONGAKUEIZO&SEARCH_DB_ASHIHARA=SEARCH_DB_ASHIHARA&TA_TITLEC=%2F%B4%D8%C5%EC%C2%E7%BF%CC%BA%D2%C4%AB%C1%AF%BF%CD%B5%D4%BB%A6%CC%E4%C2%EA%B4%D8%B7%B8%BB%CB%CE%C1%2F&TA_TITLEC_CO=SEARCH_CONDITION_AND&TA_LIBRARY_DRP=99&SEARCH_WINDOW_INFO=01&LS=4710822282

http://opac.ndl.go.jp/Process?MODE_10090001%3AS4=ON&SEARCH_DB_WATOSHO=SEARCH_DB_WATOSHO&SEARCH_DB_YOTOSHO=SEARCH_DB_YOTOSHO&SEARCH_DB_WAZASHI=SEARCH_DB_WAZASHI&SEARCH_DB_YOZASHI=SEARCH_DB_YOZASHI&SEARCH_DB_DENSHI=SEARCH_DB_DENSHI&SEARCH_DB_KOTENSEKI=SEARCH_DB_KOTENSEKI&SEARCH_DB_HAKURON=SEARCH_DB_HAKURON&SEARCH_DB_MAP=SEARCH_DB_MAP&SEARCH_DB_ONGAKUEIZO=SEARCH_DB_ONGAKUEIZO&SEARCH_DB_ASHIHARA=SEARCH_DB_ASHIHARA&TA_KENMEIA=%2F%C4%AB%C1%AF%BF%CD%B5%D4%BB%A6%BB%F6%B7%EF%281923%29%2F&TA_KENMEIA_CO=SEARCH_CONDITION_AND&TA_KENMEIID=00573728&TA_LIBRARY_DRP=99&SEARCH_WINDOW_INFO=01&DTTn=02&LS=4710822282




「拝啓

御承知の如く過日の大震災に際して
鮮人の暴行盛に宜伝せられ
或は放火殺傷強盗強姦毒薬投入等の事実を目撃し
若くは之を受けたる者ありしに拘らず
責任ある某方面に於ては早軽にも
鮮人暴行若くは放火の事実なしと放言せるため
犠牲的に奮起せる自警団員其他の者より
鮮人に対せし殺傷は
単なる流語蜚語に惑はされたる行為なりと観察せらるる恐有
之殺傷行為を為したる者の刑事責任火災保険問題,
治鮮上人道上外交上に及す所甚だ尠からずと存じ候
加え之を其儘放置せんか
武士道を以て世界に誇る我大和民族の一大恥辱にして
且つ光輝ある我歴史に一大汚点を印せる事と存じ候
依って本会は鮮人犯行事実を明にし以て
憂慮すべき上記悪影響を一掃せんと茲に奮起せる次第にて候
併して右調査の上一部を各自警団に依頼仕り度しと存じ候につき
時節柄御繁忙中甚だ恐縮の至りに存じ候へ
共御庁管内の各自警団所在地及其代表者の氏名,
住所を至急御報知相成度伏して御願申上候

大正12年10月22日 東京弁護士会 鮮人暴動調査委員」

多摩川
【第6編 社会生活史/第4章 近代/第5節 大正時代の三多摩/5.3 関東大震災】より
ttp://www.tamariver.net/jouhou/tamagawashi/parts/text/064530.htm
http://web.archive.org/web/20050425175831/http://www.tamariver.net/jouhou/tamagawashi/parts/text/064530.htm


 さて、この調査から幾星霜。
 その結果は、どんなものだったのでしょう。
 大変興味深いのですが、私はまだ見つけておりません。







地震対策の意識が高い都道府県、1位「静岡県
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1327224&media_id=54